剣道における『一本』とは、相手の打突部位を正確に打突したことを指す。打突部位とは大まかに分けて『面』、『胴』、『小手』のほか、喉付近に当たる『喉垂れ』の計4ヶ所。打つ際は竹刀の剣先と革の帯の間にある『物打』という部位で打ち、なおかつ竹刀の裏側に張ってある『弦』が相手に対して向いていないことが一本の条件となる。
しかし、以上の条件を満たしても、打突後に相手の攻撃に備えて中段に構える『残心』を怠った場合や、主審1人と副審2人のうち2人がその打突を有効と認めなかった場合、一本にはならない。このほかにも場外に出る、竹刀を落とすといった反則を2回犯すと相手側に一本が与えられる。最終的に、3本勝負のうち2本を先取した方が勝利となる。
剣道は剣の技術を習得する武道だが、普段の稽古や試合を通じ、人間形成にも役立つ側面を持ち合わせている。剣道の試合では開始前と終了後に、必ず互いに『礼』を行い、相手に感謝の気持ちや敬意を示さなければならない。これは、相手に対しての礼節を示すことで、他人を思いやれる人間になれるという考えと繋がっている。
もし一本を取った後、野球やサッカーのようにガッツポーズを取ったりすれば、どのような言い訳をしてもその一本は取り消しとなる。これほど礼儀に重きを置いた武道は剣道の他になく、世界的に見ても非常に珍しい。
つまり、外山のように礼節を欠く者は、どんなに強くても剣道のルールの上では勝てることができないのだ。むしろ、剣道を冒涜しているとさえ言えるだろう。
以前紹介したように、一本は決められた部位を正確に打突することで初めて認められる。打突部位は頭部の『右面』、『左面』、『正面』、わき腹の『右胴』、『左胴』、腕部の『右小手』、喉付近にある『喉垂れ』の七ヶ所。
この他にも、相手が上段に構えている場合のみ『左小手』が有効となる。また、喉垂れを狙う場合は竹刀の先で相手の喉の近くを突く必要があるので、かなりの危険を伴う。そのため、小中学生の試合では原則的に喉垂れを突くことは禁止されている。珠姫が父親から高校生になるまで突きを封印されていた理由には、破壊力の他にもこうした背景が関係しているのだろう。
剣道の試合に必要となる道具は『竹刀』、『胴着』、『袴』、『防具』の4つ。現代で使われている竹刀は『割り竹刀』と呼ばれ、江戸時代に入って現在の形になった。竹刀の材質は字の通り基本的に竹だが、近年はカーボン製の竹刀もある。カーボン製のものは相手に与えるダメージが大きい。岩佐の言う通り、これで小手を叩かれるととんでもない痛みが走る。
胴着と袴は藍染めが主流で、防具を着用する際は必ずこの2つを着用する。防具は『面』、『胴』、『小手』、『垂れ』の総称で、明治時代にはほぼ同じものが完成していた。それぞれ頭部、上半身、腕部、下半身を保護する役割を持っている。なお、面をかぶる際、手ぬぐいやタオルを頭に巻く光景をよく見るが、これは頭髪の脂や汗による面の劣化を防ぐためだ。
剣道において、足捌きは非常に重要な移動テクニックの一つである。まず両足を揃えた後、左足を90度傾け、つま先を支点にしてかかとを回転させる。これが基本の足の構えだ。この際、両足の間隔を適度に開き、左足のかかとを浮かせることで相手の攻撃に素早く対応できるようになる。そして、そのまま足の配置と構えを維持しながら、足の裏と床がなるべく離れないように移動する方法を『すり足』と呼ぶ。すり足はすべての移動の基礎となるので、これがスムーズにできないと、まともな試合はできない。
剣道の団体戦は、『先鋒』『次鋒』『中堅』『副将』『大将』の5人1組で行なわれる。試合形式は、勝ち抜き戦と総当り戦があるが、今回の練習試合は総当り戦となった。総当り戦の場合、先に3勝したチームが勝ちとなる。今回は試合展開などから、室江・町戸両チームの戦略を振り返ってみよう。
まずは先鋒戦。相手の出鼻をくじき、チームの士気を上げるために、ここには強者が配置されることが多い。虎侍はこのセオリー通り、超高校生級の珠姫を起用。対して石橋は、正統派の原田をぶつけた。
続いての次鋒戦では、虎侍は実戦に慣れさせるため、都を配置。一方石橋は、虎侍が前述のセオリーを踏まえることを予測し、あえて(ムラっ気があるが)実力者の浅川を配置。
試合の流れが決まることが多い中堅戦には、両チームとも実力者を投入している。室江側は、思い切りがいい鞘子を、町戸側は初対面の相手に打ち込めないことを除けば強い西山をそれぞれ起用した。
副将戦でも石橋は虎侍の裏をかき、腕の立つ安藤を起用(反則スレスレ行為が多いが……)。対する虎侍は、安定感のある部長の紀梨乃を投入。どうやらここで勝負をつけようと考えていたようだ。
そして大将戦。肩書き通り、ここにはチームで最も強い選手が配置されることが多い。そこで町戸側は超攻撃的な横尾を投入する。室江側も、ここは最強の選手を置きたいところだが……
前回は足捌きの基本を紹介したが、本話で珠姫が他の部員たちにその応用を教えていたので、ここではそれを見ていこう。
まずは基本の『送り足』。これは、進みたい方向の足を先に動かし、その後に反対側の足を沿わせるように動かす運び方。前後左右で素早く動きたい時に用いる。
体ごと大きく左右に動きたい場合は『開き足』を用いる。これは足だけではなく、腰も含めて回る動きだ。
また攻める際など、大きく踏み込みたい時には『継ぎ足』が使われる。これは、後足(左足)を前足(右足)の近くまで引き付け、その勢いを利用する足運び。シャクトリムシの動きを思い起こすと分かりやすいだろう。
また、相手との距離が開いている時には、日常の歩き方と変わらない『歩み足』を使うこともある。このように、足捌きにも色々種類があるので、注目して見るとアニメがより面白くなるかもしれない。
都が浅川に何発も打ち込んでいたが、なぜか一本は取れなかった。これはなぜか? 答えは簡単。有効打突ではないためだ。有効打突については第1回で説明しているので、今回は都と浅川の試合から、なぜ都が有効打突を取れなかったのかを考えてみたい。
まず、相手が常に動き回っていることが挙げられる。もし、近くにヒモ付の照明があるならば、そのヒモを左右に揺らし、そしてヒモの1点に注目し、そこを狙ってパンチしてみよう。狙い通りのところに当てることは意外と難しいはずだ。このように、単純な動きのヒモでも当てにくいのだから、本気で避けようとする人間相手に攻撃を当てることは、実は思っている以上に難しい。
2つめに、都が適切な間合いを取れていなかったことが挙げられる。有効打突の条件の一つに、竹刀先端の『物打』で叩くべし。というルールがある。だが、間合いを詰めすぎてしまうと、物打で叩くことが難しくなるのだ。打ち込みそのものが好きな都の性格上、勢い余って必要以上に間合いを詰め、物打から下の部位で打ち込んでいた可能性が高い。
紀梨乃が安藤に放った鮮やかな小手。見事なカウンターとなったこの技は、剣道の基本的な『返し技』である。これは、相手が攻撃する時に生まれる隙を狙うもので、基礎をしっかり身につけなければ実践することは難しい。
紀梨乃が使った技は、『すりあげ小手』と言う。これは相手と竹刀を合わせた状態から、手首のスナップを効かせて半円を描くように相手の竹刀を弾き、払った自分の竹刀の方向、力をそのまま攻撃の動作に転用する技である。今回、紀梨乃は小手に一撃を加えたが、面を狙う場合もある。この時は『すりあげ面』と呼ばれる。応用として、相手の小手を大きく振りかぶって回避し、面を打つ『小手抜き面』などがある。
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